酒造りツーリズム
昨年の春から東北地方南部の地域へ、季節に応じて酒造りの旅に出かけている。田植え、稲刈りなどの農作業を行いながら、酒蔵を訪ねながら、遊びながらの1泊2日の旅。自分たちの田んぼから収穫された米は酒米一等米。一樽の必要な米の量からすると、微々たる量であるけれども、お酒の樽に加えてもらう。無事に仕込みが済んで、このまま順調に推移すれば、今秋には純米酒ができあがる。
今回の旅は、酒蔵での仕込みの体験作業である。しかし、ずぶの素人が酒蔵に行っても、ほとんど役に立たない。実際には、仕事の邪魔にならぬように、酒蔵の隅でほとんど見学しているだけ。仕込みの最中に雑菌が入る恐れがあるにもかかわらず、素人を受け入れていただいた。それだけでも、じゅうぶんに感謝すべきことである。
前夜から多くの雪が降っていた。蔵のなかは、しんしんと冷えている。午前八時に、米が蒸しあがった。お米を適切に発酵させるには、温度管理が大きな鍵となる。しんしんと冷えているけれども、蔵のなかの気温はまだ高い。だから出入り口を開けて、外から冷気を呼び込む。釜から出された米は麻布に包まれ、人の手によって別の場所に素早く運ばれてゆく。麻布が開かれ、米は平らに広げられ、煽られ冷まされてゆく。しばらく置くと、再び麻布に包まれて、今度は麹室に運ばれてゆく。
この酒蔵は小さくて、昔ながらの製法で酒がつくられている。機械を使う部分もあるけれど、いまだに人手がよる作業も多く残されている。温度管理が命取りである。そのために蔵の中を、まさに人が駆けて行く。交わす言葉はほとんどない。あうんの呼吸で、局面が次々と切り替わってゆく。狭いコートなかをプレーヤーが駆け回るバスケットボールみたいである。それが職人技の世界なのだろう。
ほんのわずかであるが、水仕事の手伝いなどをした。室温は4℃であるから、井戸水がとても暖かく感じられた。手足を動かすと、身体が温まってくる。ほっとする。その後で、発酵途上のお酒を試飲させてもらった。再び、ほっとする。しんしんと寒くて、最後はほっとした酒造りツーリズム。
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